聴講しました 第14回 浜松医科大学「子どものこころの発達研究」講演会

昨日は第14回 浜松医科大「子どものこころの発達研究」講演会を聴いてきました。

今年の講演プログラムは以下の通りです。

Ⅰ 「発達障害と子ども虐待の親子平行治療」 
国立病院機構 天竜病院 児童精神科 藤江昌智先生

Ⅱ 「発達障害の臨床 -この10年間の進歩と課題-」
浜松医科大学 児童青年期精神医学講座 特任教授 高貝 就先生

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Ⅰでは、ある架空の症例を取り上げて、様々なアプローチの説明を交えながら、

その治療の課程をお話されました。

噓が止まらない、ADHDがある小学生と、その嘘を過剰に責める母親の例でした。

治療の初めのうちは、病院スタッフや医師の提案などもかたくなに受け容れなかった母親が

医師からいたわりや育児をねぎらう言葉をかけられるうちに、心がほぐれ

医師と共に子どもの治療に取り組んでいくプロセスが語られました。

また、母親自身が不遇な子ども時代を過ごしたことが心の傷として残っていたため

トラウマ治療を受けていくのですが、その効果で徐々に家庭内にも良い循環が生まれ、

夫との関係も良好になり、子どもの噓の程度も軽くなったり、母親が噓に対して寛容になったという話でした。


また、良い循環を生む療法として「P循環療法」を紹介されました。

Pはポジティブの意味で、その要素は思いやりや利他的な行動。

反対のN(ネガティブ)要素は、自分勝手な自己主義、執着心などだそうです。

「因果応報」という言葉にもあるように、

N人間は周囲にN要素を放ち、それが巡り巡って本人に戻ってくる。

逆に「笑う門には福きたる」というように、Pが満ちた人間は自分が放ったPを受け取ることができるそうです。

「人間の本質はP」であるとし、クライアントのPを信じて治療にあたり、

治療面談の場がPになるよう治療者は努めるのだそうです。

そして、家族の中にもPを循環させることで、家庭全体が良い方向に変化していくとのことでした。

他のトラウマ治療法として、EMDR(眼球運動による脱感作(だっかんさ)と再処理法)や

TFT(思考場療法)という、身体のツボを特定の叩き方でタッピングする方法なども紹介されました。



講演のⅡでは、近年の医療・福祉・教育の全般的な話とからめて、

最新の話題と課題が語られました。

まずは2005年に定められた発達障害者支援法が10年ぶりに改正されるお話でした。

(改正のおおまかな内容についてはこのブログでも書いたことがあります⇒発達障害者支援法 法改正へ

これらを進めるうえで、取り組むべき課題に下の3つを挙げました。

・標準化された適切なアセスメントツールの導入と活用

・就労支援事業の質の向上。事業者対象の研修。

・ライフサイクル(早期発見⇒幼保⇒小・中・高校・・・)の縦軸の支援の充実



次に、早期発見について、コホート研究(同じような特定の集団を一定期間追跡する研究)と

早期発見のツールについてお話されました。

高貝先生らは「浜松母と子の出生コホート研究」を2007年から行っており、

1,258名の新生児がエントリーし、うち90%の子の発達のさまをその後も追跡しているそうです。

この研究で、10~32カ月時でのASD(自閉症スペクトラム)の早期兆候をとらえることができたとのこと。

また、ASDの早期発見ツールとして、注視点検出装置「かおテレビ」(GazeFinder:ゲイズファインダー)が紹介されました。

これは、(検査を受ける)子が、目の前のパソコンの画面に映し出される映像の

どこを見ているかという注視点を検出することによって、その社会性の発達度合いを調べるものです。
聴講しました 第14回 浜松医科大学「子どものこころの発達研究」講演会
(画像はJVCケンウッドのホームページより)

1~2歳児でも受けることが出来て、その信頼度は8割以上とのこと。

ASDのスクリーニングには、一般的にM-chatなど、親や支援者の観察と聞き取りによるものが主流ですが

これらは親などの主観的な見方が結果に歪みをもたらす危険がないとも言い切れません。

しかし「かおテレビ」では、子どもの社会的発達について客観的な見立てが可能のことで、

すでに臨床応用の可能性が近づいているそうです。


続いて、養育者へのサポートの必要性についてのお話では

「親は子の最大の支援者となりうる」とし、

「ペアレント・プログラム」を紹介されました。

ペアレント・プログラム(略称ペアプロ)は、

「ペアレント・トレーニング(ABA(応用行動分析)を基本に、親を通じて子どもへの発達促進を行っていく介入法)」のうち、

第1ステップの「行動を観る」という段階を抽出した入門編のようなプログラムのようです。



次に、福祉事業所の質の向上については、

Vineland-Ⅱ(ヴァインランド:適応行動尺度)というアセスメントツールの活用をお話されました。

Vineland-Ⅱでは、単にIQの高低だけではなく、社会性やコミュニケーションの領域、日常生活スキルや運動などの領域についても評価できるとのこと。

支援事業所側が、こういったアセスメントツールを活用することで、

利用者の支援ニーズを正しく把握することができるようです。

ペアプロにしても、Vineland-Ⅱにしても、観る力のスキルアップを図ることが、支援者のスキルアップにつながるとのことでした。

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昨日、聴講した内容で一番印象に残ったのは「かおテレビ」のことです。

杉山登志郎先生も、過去に行った何度かの講演の中で「かおテレビ」についてお話されました。

私も、何年か前にこの「かおテレビ」を体験する機会に恵まれましたが、

当時は「こういう装置が開発されたなんて!」と、かなり衝撃を受けました。

(今は当時よりバージョンアップされているはずです。)

昨夜、「かおテレビ」のことが大きな公開講演会で紹介され

いよいよ一般に、現場への導入に向かっているのかなという印象を持ちました。

わずか数年の間に、様々なことがどんどん変わっていく分野だわぁ~と改めて感じた講演会でした(^_^;)




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この記事へのコメント
講演のⅠは、興味のある内容です

子どもの行動には親自身の生育歴が大きく関わっているんですね。
自分が持っている引き出しは、自分の経験から作られてるからですよね
Posted by o-chaberyo-chabery at 2016年04月03日 20:14
o-chaberyさま

コメントありがとうございますm(__)m

実際に臨床で治療にあたっているお医者さんのお話はとても興味深かったです。この症例では、母親の成育歴が育児の姿勢に大きな影響を及ぼしているようでしたが、いわゆる虐待の負の連鎖は必ずしも起こるとは限らないと、藤江先生がおっしゃっていました。
(この症例は架空のものですが)適切な治療を受け、旦那さんとも良好な関係が築けるという経験をして、このお母さんには幸せな引き出しが新たに作られたのかもしれませんね・・・(^_^)
Posted by あーるあーる at 2016年04月04日 21:54
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